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札幌地方裁判所 昭和60年(行ウ)12号 判決

札幌市中央区南二条西一丁目五番地

原告

丸大大成商事株式会社

右代表者代表取締役

大野吉成

右訴訟代理人弁護士

馬見州一

越後雅裕

札幌市中央区大通西一〇丁目

被告

札幌中税務署長

斎藤雅彦

右指定代理人

小川賢一

小林勝敏

斎藤昭

西谷英二

佐藤隆樹

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五七年五月三一日付けでした原告の昭和五四年九月一日から同五五年八月三一日までの事業年度(以下、「昭和五五年八月期」という。その他の事業年度についても同様の例による。)の法人税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

2  被告が昭和五七年五月三一日付けでした原告の昭和五六年八月期の法人税の更正処分のうち所得金額七八二万九九七〇円及び納付すべき税額一〇九万円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定を取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する被告の答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、不動産賃貸等を業とする資本金二五〇万円の株式会社で、法人税法にいう同族会社であり、毎年九月一日から翌年の八月三一日までを一事業年度とし、昭和五五年八月期及び昭和五六年八月期の法人税につき別表1記載のとおり確定申告及び修正申告を行つた。ところが、被告が、これに対して同表に記載のとおり更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下、「本件処分」という。)を行つたので、原告は、本件処分を不服として適法な不服申立を行い、昭和六〇年九月二日原告の不服申立を棄却する旨の国税不服審判所長の審査裁決があつたことを知つた。

2  しかしながら、本件処分は、原告の所得を過大に認定した誤りがあり違法である。

3  よつて、原告は、請求の趣旨に記載の範囲で本件処分の取消を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁

請求原因1の事実は認め、同2は争う。

三  被告の主張

原告は、昭和五四年一二月まで、訴外日本都市総合開発株式会社(旧商号は日本ビル開発株式会社である。以下、「日本都市(株)」という。)に対し七一二〇万六〇九三円の債務を負担していたが、同月その債務の免除を受けた。したがつて、その免除益は、昭和五五年八月期中に生じた法人税法にいう益金となる。しかし、原告は、同期の確定申告及び修正申告に際し、この債務が未だに存在するものとして申告を行つたため、被告としては、これに右益金を加算することとし本件処分を行つたのである。その詳細は以下のとおりである。

1  原告と日本都市(株)との委託関係

原告は、昭和四二年一二月二二日、日本都市(株)、訴外東海興業株式会社及び原告代表者大野吉成とともに、札幌市中央区南二条西一丁目所在の原告所有にかかる丸大大成ビル(以下、「本件ビル」という。)の建築及び経営について、別紙のとおり契約(以下、「本件契約」という。)を締結した。もつとも、本件契約第一〇条にいう委託終了時における原告の負債総額三億円は、その後三億二七七二万一〇〇〇円と変更されている。日本都市(株)は、本件契約に基づき、委託業務として本件ビルの管理・経営を行い、本件契約上の委託期間経過後の昭和五四年一二月頃、原告に対し本件ビルの管理・経営、経理処理を引き継いだが、その間本件ビルの管理・経営に専従する社員を派遣し、継続的に本件ビルの収支に関する帳簿を記載していた。また、原告においても、顧問税理士を使用して日本都市(株)の作成した帳簿に基づき毎年確定申告を行つていた。原告は、委託終了後である昭和五五年八月期の確定申告を行つた際、その計算の根拠となる決算報告書中で、固定負債として日本都市(株)に対し五二〇〇万六六六八円の債務(以下、この勘定を「日本都市(株)勘定」という。)を負担し、流動負債として日本都市(株)に対し一九一九万九四二五円の未払金債務(以下、この勘定を「未払金勘定」といい、これと日本都市(株)勘定の合計を「本件勘定」という。)を負担するものとしていた。

2  日本都市(株)勘定

日本都市(株)は、本件契約に従い、本件ビルの建築のほか委託期間中の本件ビルの管理・経営に要する一切の費用(すなわち、新築工事代金、敷地地上権取得代金、固定資産税、火災保険料、管理に要する人件費等の一切の費用)を他からの借入れないし自弁により調達し、これにつき委託期間中に得られる本件ビルの収入から適宜弁済を受けていたが、このような必要費用の発生とその弁済による消滅の経過を日本都市(株)勘定の課目で継続的に帳簿に記載していた。このような経理操作は、委託期間中においては、本件契約第六条の委託費用額算出の前提となる本件ビルの収支計算のため、期間終了時においては、原告が最終的に本件ビルの経営引継の際負担すべき債務額を算出するために不可欠のものであつた。そして、日本都市(株)勘定の数額は、委託期間終了時で五二〇〇万六六六八円となつていた。ところで、右必要費用は、本件ビルの建設及び管理・経営のため日本都市(株)が原告のために調達したものであるから、委託期間終了時には原告が日本都市(株)に弁済の義務を負う債務である。

3  未払金勘定

原告は、本件契約第六条に従い、委託期間中本件ビルに利益が生ずればこれを日本都市(株)に支払う義務を負つていたが、会計上の利益が発生しているにもかかわらず賃料未収等の事情によりその支払をしていない場合には、それが原告の日本都市(株)に対する未払金勘定となる。また、日本都市(株)が原告のために本件ビル運営に必要な資金を調達すれば、借入金利息が生じる。日本都市(株)は、日本都市(株)勘定の外に、委託期間中に支払いを受けるべきであつたにもかかわらず委託期間中の賃料未収によつて弁済を受けえなかつた費用を未払金勘定の課目で継続的に帳簿に記載していたが、その数額は、委託期間終了時で九九一九万九四二五円となつていた。これも、日本都市(株)勘定同様に原告の日本都市(株)に対する債務となる。

4  債務免除

(一) ところで、本件ビルの経営の引継は委託期間終了時には円滑に行われず、原告と日本都市(株)とは、若干の紛争の末、昭和五四年一二月、(1) 日本都市(株)は原告に対し一億七六三〇万円を支払う、(2) 原告は、日本都市(株)に対し二億円を支払う(五年間据え置いて一九八五年一二月三一日から一〇年間毎年末限り支払う)とともに更生会社ナカウロコ向井に対する九七一七万六〇〇〇円と地下テナントに対する三〇五四万五〇〇〇円の各預り金の返還義務を負う、(3)原告と日本都市(株)との間には右(1)(2)を含むこの和解契約に定めるもの以外に債権債務関係はないとの内容の和解契約(以下、「本件和解」という。)を締結するに至つた。

(二) 右(1)の金額は、日本都市(株)が原告に支払うべき二億五六三〇万円(その内訳は、一色株式会社からの預り保証金二億円、右ナカウロコ向井の原状回復費一六四〇万円、減価償却差額金三九九〇万円の合計)から、原告日本都市(株)に支払うべき右一色株式会社の賃料八〇〇〇万円の差額である。また、右(2)の金額は、原告が本件ビルの経営を引き継ぐことになつたことにより、日本都市(株)及び本件ビルの賃借人に対して負担することとなつた債務であるところ、その数額は、日本都市(株)の委託業務終了に伴つて原告の負担が予定されていた前記1に記載の債務額三億二七七二万一〇〇〇円と一致する。

(三) ところで、右一色株式会社の賃料八〇〇〇万円は、委託期間中未収となつていたものであり、会計上は委託期間中に生じた本件ビルの利益となつていたものである。したがつて、その金額は、本来、本件契約第六条に従い委託費用として日本都市(株)に支払われるべきであつたが、賃料未収を理由に前記未払金勘定九九一九万九四二五円に含まれていた。そして、本件和解による差引計算の結果これが支払われたことになつたため、未払金勘定は、一九一九万九四二五円となつたのである。しかも、結局のところ、本件和解に定めるもの以外に債権債務関係はないこととされたのであるから、右未払金勘定も前記日本都市(株)勘定も原告において支払義務を免れたのである。

5  本件処分の適法性

原告は、昭和五五年八月期につき、本件勘定があるものとして確定申告及び修正申告を行つたが、右のとおりであるので、被告としては、同期にこれら本件勘定の免除益が発生したものと認定し、これを益金に加算した上で、繰越欠損金を認容し、さらに同五六年八月期については前事業年度の更正により繰越欠損金がなくなるため右欠損金を否認した上で事業税を認容し、適法な計算に基づき本件処分を行つたものである。

四  被告の主張に対する原告の認否及び反論

1  原告の認否

(一) 被告の主張1の事実は認める。

(二) 同2及び3のうち、日本都市(株)が被告主張の勘定課目で帳簿を作成していたことは認めるが、その余は否認する。それら勘定は、日本都市(株)が委託業務に関してその本店と札幌営業所との計算関係を明らかにするために作成したのであつて、その記載は原告と日本都市(株)との債権債務関係を表するものではない。

(三) 同4(一)の事実は認めるが、同(二)及び(三)の事実は否認する。

(四) 同5の本件処分の経過、計算の適法性は認める。

2  原告の反論

(一) 本件契約に明らかなとおり、日本都市(株)は、一方で、昭和五三年一〇月三一日までの一〇年間の委託期間、本件ビルの建築資金のほか委託期間内の管理・経営に要する一切の費用を調達し、公租公課を支払い、火災等による本件ビルの損害を負担する自分自身の責任を負つていたのであり、他方で、本件ビルの賃貸によつて受領する敷金、保証金、賃料などは全部これを収受して右投下資本の回収に充てることができ、また本件ビル経営で利益がでても委託期間中これを原告に支払うことなく委託費用として所得にすることができたのである。そして、原告は、委託期間中本件ビルの管理・経営に全く利害関係を持たず、ただ、委託期間終了後三億円の債務を負担した状態でその経営を引き継いで初めて自己の事業として本件ビルから収益を得ることができるにすぎなかつたのである。したがつて、委託期間中における本件ビルの収支の帰属主体は日本都市(株)であつて原告ではなく、その間、原告と日本都市(株)との間で債権債務関係が生じることはないのである。ましてや、未払の委託費用が委託終了後も右三億円以外に債務として残存することなどありえない。すなわち、日本都市(株)が日本都市(株)勘定や未払金勘定を記帳していたとしても、それは、日本都市(株)の本社が本件ビルに投下した費用を、本件ビルを実際に管理・経営する日本都市(株)札幌営業所から送金を受け逐次回収した状況を記録したものにすぎず、現在又は将来発生すべき原告と日本都市(株)との間の債権債務関係を表すものではない。原告は、昭和五五年八月期の決算報告に基づき確定申告した際にも、日本都市(株)から引き継いだ帳簿書類に基づき従前事業年度の確定申告と形式的継続性を持たせるために被告主張のような申告をしたにすぎない。原告は、そのような帳簿上の債務の存在を深く認識していなかつたのである。右申告は実体を反映しないものである。したがつて、存在しない債務が免除によつて消滅することはなく、本件和解により被告主張の益金が生じることはない。

(二) 仮に本件勘定が存在していたとしても、それは本件和解で免除されたものではない。本件和解中に債権債務関係不存在確認条項があることは被告主張のとおりであるけれども、これは、日本都市(株)において宮城県成瀬町の政治家に提供する二〇〇〇万円を帳簿上捻出するため、原告代表者大野が日本都市(株)から架空の借入れを行つたことにしていたものを大野の負担すべき債務ではないと確認したものである。原告には委託期間中の計算関係に全く関心がなかつたため、本件勘定があるということやこれが和解の対象になつていることにつき何ら認識がなく、右債権債務関係不存在確認条項によつて本件勘定の免除や不存在が合意されたものではない。

(三) また、本件勘定が存在していたとしても、それは本件和解中で、原告が日本都市(株)に支払うことになつた二億円の債務の中に含まれているといわざるをえない。日本都市(株)は本件和解により原告に対し一億七六三〇万円を支払うことになつていたのであるから、もし本件勘定があつたとすれば、日本都市(株)が相殺するという方法によりこれを回収することは容易だつたのであり、日本都市(株)がこれを免除する必要はないのである。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

第一被告の主張について

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。そこで、日本都市(株)勘定及び未払金勘定が原告の日本都市(株)に対する債務であり、かつ、これが本件和解により免除されたものであるとの被告の主張について検討する。

被告の主張1の事実(本件契約の締結、その第一〇条に定める債務額の変更、日本都市(株)が本件ビルの管理・経営を行つてその間の収支を帳簿に記帳し、原告の税理士がその経理の成果に基づき毎年確定申告をしていたこと)、同2、3の事実中日本都市(株)が本件契約に基づく委託期間中日本都市(株)勘定及び未払金勘定を記帳していたこと並びに同4(一)の事実(本件和解契約の締結)は、いずれも当事者間に争いがないところ、原本の存在及び成立に争いがない甲第一号証の一ないし一二、証人干場紀夫及び同谷奥一郎の各証言により真正に成立したものと認められる甲第二号証の一ないし一一、第三号証の一ないし一一、弁論の全主旨により原本が存在し、かつ真正に成立したものと認められる甲第二一号証、いずれも成立に争いがない乙第一号証、第二号証、第二〇号証の一及び二、いずれも原本の存在及び成立に争いがない乙第三号証、第五号証、第二七号証、証人谷奥一郎、同志毛井光及び同干場紀夫の各証言によれば、以下の事実が認められ、これを動かすに足りる証拠はない。

1  日本都市(株)は、本件契約後、本件ビルの建築資金三億五〇〇〇万円及び原告に支払うべき協力金一億五〇〇〇万円(すなわち、原告が本件ビル敷地の地上権者である原告代表者大野からその地上権を取得するための対価)を東海興業株式会社や東洋棉花株式会社から調達する目途をつけ、本件契約に定める委託業務を開始し、原告の谷奥顧問税理士の関与のもとに、本件ビルが未だ建築途上にあつた昭和四三年八月期の原告の決算報告書を作成した。右決算報告書中の貸借対照表には、日本都市(株)が本件ビル建築のために投下した資金が日本都市(株)勘定の名目で、右協力金が預り保証金の名目でそれぞれ固定負債に掲げられていた。

2  原告と日本都市(株)は、昭和四三年一一月二一日本件ビルの経営会議を開き、本件ビル経営の収支を明らかにするため原告の計算を事業部(本件ビル経営部門)と管理部に分けること、管理部の帳簿類の処理方法、本件ビル内のエスカレーターが日本都市(株)に属すること、減価償却は定率法により行うこと等の具体的な取り決めがなされた。原告の計算が事業部と管理部に分けられたのは、本件ビルの収支計算をした後の利益相当額が原告の日本都市(株)に対して支払うべき委託費用となるため、原告の本件ビル経営による収支とそれ以外の収支を区別するためである。

3  その後、昭和四四年八月期から昭和五三年八月期まで、日本都市(株)は、本件ビルの建築費用や右協力金を始め、本件ビルの管理・経営に要した人件費、雑費、火災保険料、固定資産税、日本都市(株)の所有とされたエスカレーター使用料など一切の費用を投下資本とし、これを本件ビルの賃貸によつて取得する敷金、保証金、協力金等の名目の金員及び賃料から逐次回収する経過を日本都市(株)勘定として継続的に記帳していた。そして、日本都市(株)は、右投下資本は、結局のところ本件ビルの委託経営のため日本都市(株)において原告に用立てた金額であるから、原告の日本都市(株)に対する債務であるとして経理処理し、原告としても、谷奥税理士関与の下、その帳簿に従い日本都市(株)勘定が原告の日本都市(株)に対する債務である旨の決算を承認していた。さらに、日本都市(株)は、右投下資本にかかる利息等は、やはり本件ビル経営に必要な費用となるから原告が最終的に負担すべきであるとしてこれを原告の負債として経理処理した。また、単年度の収支計算上計上される利益相当額は課税対象となつてしまうから、これを損金とし原告への課税を免れ日本都市(株)の所得とするため、右利益相当額を原告の日本都市(株)に対する委託費用支払債務としなければならなかつたし、そうすることが、まさに本件契約によつて得られる日本都市(株)の利益であつた。日本都市(株)は、右金利や委託費用についても、賃料未収等の事情で未払いとなつているものを未払金勘定として継続的に記帳していた。原告は、この未払金勘定についても、日本都市(株)勘定と同様に原告の日本都市(株)に対する債務である旨の決算を承認し、これらの決算に基づき確定申告を続けていた。なお、谷奥税理士は、前記昭和四三年一一月の経営会議にも出席しており、原告の確定申告を行う際にも、日本都市(株)が作成した帳簿類を検討し原告事業部の担当者とも打ち合わせをしていたが、終始、本件契約は、日本都市(株)が資金を融資して原告所有の本件ビルを建築した上で本件ビルを一〇年間管理しその収入から右融資金を回収するとの合意である旨理解しており、日本都市(株)の日本都市(株)勘定及び未払金勘定に対し異論を述べることなく、原告の承認を得た決算に基づき確定申告をしていた。

4  ところで、日本都市(株)は、本件契約上の委託期間終了時点において、本件契約どおりの原告に対する円滑な経営引継ができず、本件ビル入居者から収受した保証金の受け渡し等の問題で原告と紛争を生じさせた。その結果、原告と日本都市(株)は、昭和五四年一二月三一日、委託期間中の債権債務の内容を詳細に検討し本件ビルのテナント入居状況を考慮して本件和解に至つたが、その和解で原告及び日本都市(株)に生じた債権債務の具体的な内容は、被告の主張4(二)のとおりであつた。すなわち、本件和解により日本都市(株)が原告に支払う一億七六三〇万円は、日本都市(株)が原告に支払うべき二億五六三〇万円(その内訳は、一色株式会社からの預り保証金二億円、更生会社ナカウロコ向井の原状回復費一六四〇万円、減価償却差額金三九九〇万円の合計)と原告が日本都市(株)に支払うべき右一色株式会社の賃料八〇〇〇万円(委託期間中未収となつており、後に原告において回収したもの。)の差額である。また、本件和解後原告が本件ビルの経営を引き継ぐことになつたことにより、原告日本都市(株)に対し二億円の債務を、本件ビルの賃借人に対し一億二七七二万一〇〇〇円の預り金返還債務を負担することとなつたが、その債務額は日本都市(株)の委託業務終了に伴つて原告の負担が予定されていた債務額三億二七七二万一〇〇〇円と一致している。

5  そして、右の和解の時点、したがつてまた原告が本件ビルの経営を引き継ぐことになつた時点における日本都市(株)勘定は五二〇〇万六六六八円、未払金勘定は九九一九万九四二五円であり、日本都市(株)が行い原告が承認していた前記のような経理処理や決算結果からすれば、本件和解の結果、原告が回収した右一色株式会社の未収賃料八〇〇〇万円が日本都市(株)に支払われたため、本件ビルに利益が生じていたのに賃料未収により未払いとなつていた委託費用が支払われたことになり、未払金勘定九九一九万九四二五円の債務は一九一九万九四二五円となる。原告は、昭和五五年八月期の決算で右和解に沿う経理処理をしている。また、日本都市(株)は、本件和解の債権債務関係不存在確認条項により、その原告に対する日本都市(株)勘定五二〇〇万六六六八円及び未払金勘定一九一九万九四二五円の債権が消滅したものとし、その決算でこれを雑損失として経理処理した。

二  以上の事実が認定できる。すなわち、日本都市(株)は、本件契約に基づき、当初約五億円もの資金を他から調達して本件ビルに投下したものであり、そのため、自ら一〇年間本件契約ビルの管理・経営を行い、その委託期間中本件ビル賃貸によつて取得した全ての金員(その中には、本来本件ビル入居者に返還債務を負つている敷金・協力金等の金員も含まれる。)を投下資本回収及び管理・経営のための必要経費に充てていたのである。

ところで、もし、右投下資本が原告の負担する債務とならないのであれば、原告は何らの負担なしに無償で本件ビルを取得したことになり、この無償取得が課税の対象となつてしまうが、そのような会計処理は、利潤追及を目的とする企業の会計処理として現実的でないというばかりでなく、公正妥当な会計慣行によつて原告という企業の担税力を正当に計測したことにもならないことが明らかである。そして、公正妥当な会計慣行と企業活動とは不可分の関係に立つから、本件契約がこれを無視してなされたとみることもできないのであつて、本件契約上は、日本都市(株)の投下した資金がすなわち原告の債務(債権者はそれを調達して投下した日本都市(株))と理解せざるをえないし、日本都市(株)の本件ビル経営はその回収の過程とみなければならない。したがつて、原告が委託期間中に日本都市(株)勘定と未払金勘定を債務として決算処理したことは、経理処理方法に窮してそうしたものではなく、妥当な会計慣行から当然に導かれる本件契約の趣旨に従い、本件勘定の存在を承認したものと理解しなければならない。すなわち、本件勘定は原告の日本都市(株)に対する債務というべきである。

ところで、日本都市(株)の右回収が順調に進み委託期間終了時までにその回収が終了すれば、委託期間終了後は原告が返還の責任を負う敷金・協力金等の金員で日本都市(株)において費消したものを原告に引き渡して(あるいは、これを原告の負担とする旨合意して)委託業務を終え、その後はその金額が原告の日本都市(株)に対する債務(あるいは、原告の入居者に対する負担)となる(その上限は三億二七七二万一〇〇〇円)のであり、そのような委託の終了がまさに本件契約の予定したところであるというべきである。しかし、実際には、そのようにはならず、本件和解の時点において、本件勘定が一億五一二〇万六〇九三円(日本都市(株)勘定五二〇〇万六六六八円、未払金勘定九九一九万九四二五円)であり、しかも、本件和解の内容からも明らかなとおり、日本都市(株)から原告に対して引き継がれるべき本件ビルの入居者からの預り金の額は、三億二七七二万一〇〇〇円にまで達していたのである。ところで、本件契約によれば、このような場合でも委託終了時に原告の負担となる債務の上限が決められており、その上限を超える部分は日本都市(株)の負担となり、原告の支払義務はないとされているのであるから、本件和解は、本件契約に従い、その部分(具体的には、未払い委託費用八〇〇〇万円を除いた七一二〇万六〇九三円)の支払義務の不存在をも確認したものといわなければならない。

三  以上に説示のとおりであるから、原告は、本件和解の日を含む原告の昭和五五年八月期中に日本都市(株)に対する右七一二〇万六〇九三円の支払義務を免れたものというべきである。したがつて、右金額は同事業年度に生じた益金というべきであり、原告の昭和五五年八月期の申告に対し右金額を加算し、これを基礎として行われた本件処分は適法といわなければならない。

第二原告の反論について

一1  原告は、本件契約の委託期間中は、本件ビルの収支の帰属主体は日本都市(株)であつて、日本都市(株)自ら投じた資金を自己の収益から回収するという過程があるにすぎず、原告はただ委託期間終了後三億円の債務を負担して本件ビルの経営を引き継ぐというだけで、その間の収支に関する利害関係もなく、委託期間中に原告と日本都市(株)の間に債権債務関係が生じることはないから、日本都市(株)勘定も未払金勘定も原告の債務でない旨主張し、証人干場紀夫の証言及び原告代表者本人尋問の結果中にも、同人らがそのような認識を有していた旨の部分がある。しかしながら、右主張及び証拠はそもそも原告自身が昭和四三年八月期以降一〇年以上にわたつて承認していた決算の結果を全て否定する極めて唐突で奇異なものといわなければならない。そればかりでなく、原告が自らの顧問税理士を使用して日本都市(株)の作成する帳簿類を審査していた事実、本件契約後も原告が委託期間中の減価償却の方法や本件ビル内のエスカレーターの所有権の帰属について関与していた事実等の前認定の事実に照らしても、日本都市(株)勘定や未払金勘定が債務でないにもかかわらず、原告が日本都市(株)の経理処理を疑問なく是認しこれが債務である旨の決算をしていたということは、にわかに措信し難いところである。

2  また、右原告の主張及び証拠は本件契約の内容とも矛盾するものといわなければならない。まず、委託期間中、単年度の損益計算により益金が生じた場合(この場合には、未収賃料があつても当該事業年度中に発生したものは法人税法にいう益金となる。)これに対して課税されることは当然であり、その対象は本件ビルの所有者である原告とならざるをえない。本件契約は、このことを前提として、そのような課税を免れ右益金相当額を日本都市(株)の所得とするために、原告が右益金相当額を日本都市(株)に委託費用として支払うことにしたものと理解するほかないのである。なるほど、原告は委託期間中本件ビルから利益をあげることができないのであるが、それは右益金相当額の委託費用を支払うから結果的にそうなるというにすぎないのであつて、このことをもつて、すなわち原告には委託期間中本件ビルに対し何らの利害関係もないということは、本末転倒といわなければならない。

次に、委託期間終了後原告と日本都市(株)との間で発生する債権債務関係の数額を確定し、かつ法人の決算の明確性及び継続性を確保するためには、たとえ委託期間中具体的な履行問題が顕在化しないまでも、委託期間中における原告と日本都市(株)の債権債務関係を逐次明らかにすることが不可決というべきであり、本件契約が原告の帳簿検査権限を明文化していることに照らしても、日本都市(株)が委託期間中継続的に記帳していた本件勘定が、日本都市(株)の恣意によつて作出されたものであるとか、単なる日本都市(株)の本支店勘定であるとすることはできない。

さらに、原告は、委託期間終了後に三億円以下の債務を負担した状態で本件ビルの経営を引き継ぐのみであるから、原告と日本都市(株)との間に委託期間中債権債務関係が生じることはないというので、この点についても検討するに、確かに、本件ビル経営が順調に進み日本都市(株)が投下資本を回収し、かつ未収賃料も生じなければ、本件勘定のような勘定が残存せず、原告のいうとおりの委託業務終了が実現したと考えられる。その意味で、原告のいうような結果は本件契約に即した望ましい事態であることは首肯しうる。しかしながら、前記説示のとおり、実際にはそのような形での引継はできなかつたのであり、日本都市(株)の投下資本回収は完了せず、本件契約による委託期間終了時の約定債務額を超える原告の負担(本件勘定)が発生してしまつていたのである。このような事態は日本都市(株)の本件ビル経営の不手際によるものともいいうるが、本件契約は、このような事態に備え、約定債務額を超える部分は日本都市(株)の負担となり日本都市(株)において原告に支払うとされていたのである。そして、日本都市(株)が右超過額を支払えばそれは雑収入となり、日本都市(株)が超過額の支払を免除すればそれは免除益になり、いずれにせよ法人税法上の益金が発生するのである。原告や日本都市(株)が、主観的にそのような公租負担の発生まで予測して本件契約を締結したものか否かは不明であるが、本件契約の内容自体は約定債務額を超える原告の超過負担の発生を予定していたことが明らかであり、投下資本の回収の不足がその発生原因となることも自明である。原告の右主張は、本件ビル経営が順調に進めばそうなる筈だつたというにすぎないのであつて、このことから現実にも本件勘定の発生がありえないということは本末転倒といわなければならない。

二  なお、原告は、本件和解は、日本都市(株)勘定や未払金勘定等の本件勘定の存在を意識して行われたものではないというが、前認定のとおり、本件和解は本件ビル経営に関する債権債務を整理するために行われたこと、原告は昭和五五年八月期の決算で、本件和解により日本都市(株)に八〇〇〇万円(それは、委託期間中益金となる未収賃料であり、未払いの委託費用と対応する。)を支払つたため未払金勘定を八〇〇〇万円減額する決算処理をしていること、日本都市(株)も本件和解により本件勘定が免除されたものとの決算処理をしていることが認められるのであるから、これら、事実と本件契約の条項に照らせば、本件契約の定めに従い、本件和解により原告の超過負担となつた本件勘定について原告の支払義務が消滅したというほかないのであつて、原告の右主張も採用し難いというべきである。

第三結論

以上の次第で、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 根本眞 裁判官 石井寛明 裁判官 橋詰均)

(別紙)

第二条 原告は、東海興業株式会社に対し、代金三億五〇〇〇万円で本件ビルの建築を請け負わせ、東海興業株式会社はこれを請け負う。

第三条 原告は、日本都市(株)に対し、本件ビルの新築及び管理・経営を委託し、日本都市(株)はこれを受託した。

第四条 右委託期間は、昭和五三年一〇月三一日までとする。

第五条 右により委託された業務の内容は、(1) 本件ビル新築工事請負契約の締結及びその代金支払、(2) 本件ビル建設及び運営に伴う資金の調達とその返済、(3) 本件ビル入居者の募集、賃貸借契約の締結及び賃料・協力金等の徴収、(4) 本件ビルの地代、公租公課その他経費の支払を含む。

第六条 原告は、日本都市(株)に対し、本件ビルの一切の収支を償つてなお利益が生じた場合に、その金額を委託費用として支払う。

第七条 日本都市(株)は、原告に対し、協力金として一億五〇〇〇万円を提供する。原告は、これを昭和五三年から毎年一〇月三一日限り元金一五〇〇万円ずつ弁済する。利息については昭和五三年一〇月三一日までは無利息とし以後は日歩五厘の割合の利息を付する。

第八条 日本都市(株)は、原告の名で本件ビルの建設及び運営に伴う資金を調達し、本件ビル及びその敷地地上権に原告の債務額五億円を限度とする根抵当権を設定することができる。

第一〇条 日本都市(株)は、この委託契約終了時における原告の債務が三億円(前記一億五〇〇〇万円の協力金返還債務を含む)を超えないことを保証し、もし右を超過していた場合には日本都市(株)の負担とし、委託契約終了時、原告に対しその超過額を支払う。原告右債務を昭和五三年一一月一日以降一〇年間で利息日歩五厘以下にて弁済する。

第一二条 本件ビルの所有権は、建築工事代金の支払の有無にかかわらず、当初から原告に属する。

第一三条 日本都市(株)は適法の範囲内で減価償却を行い、これによつて生じる公租公課の負担を右第一〇条の債務総額にさせない。また、日本都市(株)は、原告の名によつて行う本件ビルの経営に伴つて生じる公租公課の支払を遅滞させない。原告は日本都市(株)の行う本件ビル経営に関する諸帳簿を検査することができ、日本都市(株)は、半数を超えない限度で原告に対し取締役を派遣することができる。

第一四条 原告及び日本都市(株)は、相手方の債務不履行の場合を除き、本件契約を任意に解約できない。、

第一五条 委託期間中の火災等に伴う損害は日本都市(株)の負担とする。その損害補償のために支払う損害保険契約の保険料は日本都市(株)の負担とする。

別表

〈省略〉

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